動物学会賞 2011(平成23)年度受賞者

社団法人日本動物学会
学会賞等選考委員会 委員長 西田宏記

平成23年度日本動物学会学会賞

 応募者は9名であった。動物学は広範な学問領域からなるが、ほとんどの応募者はそれぞれの領域を代表する優れた研究者であり、選考規程にある「学術上甚だ有益で 動物学の進歩発展に重要かつ顕著な貢献をなす業績をあげた研究者」の条件を満たしていた。その結果、高い水準での審議となった。選考は困難を極めたが、応募者の研究内容、研究業績、動物学の進歩発展への貢献度について詳細に審議した結果、2名の候補者を理事会に推薦することとした。 

水波誠(みずな みまこと)・北海道大学大学院理学研究院・教授
対象となった研究テーマ 「昆虫微小脳の機能的設計に関する研究」

推薦理由
 水波誠会員は、昆虫の神経系とその設計原理に関する卓越した研究により、動物行動の発現機構の理解に新しい展開をもたらした。昆虫はその小さな体に、わずか100万個ほどの神経細胞しか備えていない。その脳が、数百億個の素子からなる我々ヒトの巨大脳に匹敵するほどの高度な知覚と運動制御の能力を備えていることに着目し、昆虫の脳を「微小脳」と名付けた。コオロギ・ゴキブリ・アリを対象に、行動学・心理学・生理学・組織学・薬理学・情報工学の多様な手法を統合的に駆使して研究を進めている。成果は多岐にわたり、単眼系の明暗処理、嗅覚学習における新しい「水波‐宇ノ木モデル」の提唱、社会性昆虫のフェロモン受容、空間定位と運動制御におけるキノコ体の機能解明、昆虫におけるパブロフ型連合学習の証明など、数多くの研究成果が国際的一流誌に掲載され、日本の神経行動学研究が世界をリードする水準にあることを立証した。昆虫にとどまらず、無脊椎動物の微小脳の系統進化に関する造詣も深く、微小脳研究を一般向けに分かりやすく紹介した著作によって、動物学の成果を広く社会に還元する活動を続けている。「昆虫微小脳の設計原理の理解」を著しく進展させた水波誠会員の研究は学会賞としてふさわしいと判断し、候補者として推薦した。 

井口泰泉(いぐち たいせん)・自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター・教授
対象となった研究テーマ 「内分泌かく乱化学物質の生物影響に関する研究」

推薦理由
  井口泰泉会員は,内分泌かく乱物質の生物に及ぼす影響を無脊椎動物から哺乳類に至る様々な生物種を対象に解析し,数多くの知見を発見し学術的に重要な成果をあげてきた。ステロイドホルモンによる内分泌制御を乱す外因性の化学物質が内分泌かく乱化学物質,いわゆる環境ホルモンである。『環境ホルモン』は,井口氏により提唱された造語であり,環境ホルモン問題をわかりやすく解説されてきたことは,井口氏の特筆されるべき社会貢献である。井口氏は,マウスへの出生直後のエストロゲン曝露が成長後に生殖器官に変異をもたらす仕組みの解明を1970年代から開始し,この現象の分子・細胞機構を解明し世界のリーダーとして活躍してきている。さらにその後,多数の生物種を対象とし,環境ホルモンの影響を明らかにしてきた。なかでも,環境ホルモンのミジンコへの影響調査から生み出されたミジンコの性決定遺伝子の同定に関する研究は,井口氏の類い稀な洞察力と独創的な研究スタイルから生み出されたものである。井口氏の研究は我国の動物学の学問水準の高さを世界に証明するものであり,動物学の発展に多大な貢献を行ってきた。以上の理由により,井口氏の研究は学会賞としてふさわしいと判断し、候補者として推薦した。 

 

 

 

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