動物学会賞 2010(平成22)年度受賞者

社団法人日本動物学会
学会賞等選考委員会 委員長 筒井和義

平成22年度日本動物学会学会賞

 応募者は9名であった。動物学は広範な学問領域からなるが、ほとんどの応募者はそれぞれの領域を代表する優れた研究者であり、選考規程にある「学術上甚だ有益で動物学の進歩発展に重要かつ顕著な貢献をなす業績をあげた研究者」の条件を満たしていた。その結果、高い水準での審議となった。選考は困難を極めたが、応募者の研究内容、研究業績、動物学の進歩発展への貢献度について詳細に審議した結果、2名の候補者を理事会に推薦することとした。 

深津武馬(ふかつ たけま)・産業技術総合研究所ゲノムファクトリー研究部門
対象となった研究テーマ 「共生微生物が宿主昆虫に賦与する新規機能の解明」

推薦理由
 深津武馬会員は、昆虫等の体内に存在する共生微生物に着目した独創的研究により、共生微生物が宿主昆虫に賦与する新規の生物機能を明らかにした。共生微生物は興味深い生物機能と生理活性を有するが、培養が困難であるために研究が進んでいなかった。しかし、深津武馬会員は分子生物学、細胞生物学、生理学、生態学、進化生物学などの多彩なアプローチ法を導入することで、この困難を克服した。生物間共生および相互作用を詳細に調べた深津武馬会員の研究により、共生微生物が宿主昆虫に賦与する新規の生物機能が明らかになった。さらに、深津武馬会員は、多彩なアプローチ法により、共生機構とその進化的意義に関する研究を実施して、他の追随を許さない独創的成果を数多くあげた。特に、「共生微生物から宿主昆虫へのゲノム水平転移」、「宿主-共生体共進化および縮小ゲノム進化」、「共生微生物による昆虫の植物適応の変化」、「必須栄養共生細菌ボルバキア」などの発見は抜群の学術的成果であり、国際的一流誌から数多くの研究成果が掲載されている。深津武馬会員の研究は生物多様性と進化生物学の分野を先導するものとして世界的に高い評価を受けている。「生物共生進化機構の理解」を著しく進展させた深津武馬会員の研究は、学会賞として相応しいと判断し、候補者として推薦する。 

高橋孝行(たかはし たかゆき)・北海道大学大学院理学研究科
対象となった研究テーマ 「メダカにおける排卵機構の解明」

推薦理由
 高橋孝行会員は、モデル生物であるメダカを巧みに使用して、長く不明であった脊椎動物の排卵に関わる排卵酵素(MT1-MMP、MT2-MMP、ゼラチナーゼAなど)を世界に先駆けて発見した。有性生殖を行う生物において、排卵とは受精前に完了しなくてはならない重要なイベントである。排卵研究の歴史は古く、これまで主として哺乳類を用いて数多くの研究が行われてきたが、排卵酵素の実体は不明であった。高橋孝行会員の排卵酵素(MT1-MMP、MT2-MMP、ゼラチナーゼAなど)の発見は国際的に非常に高く評価されている。この発見にとどまらず、詳細な生化学的解析により、その作動機構を解明したことは特筆すべき業績である。さらに、高橋孝行会員の最近の内分泌学的研究により、黄体形成ホルモン(LH)を引金として連動して誘起される卵成熟と排卵の機構が分子レベルで解明されようとしている。このように、高橋孝行会員の優れた研究は、生化学を基盤とするが、内分泌学、生理学、細胞生物学など広い分野を包含するものであり、国際的一流誌から数多くの研究成果が掲載されている。「脊椎動物における排卵機構の理解」を著しく進展させた高橋孝行会員の研究は、学会賞として相応しいと判断し、候補者として推薦する。 

 

 


 



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