野生動物学者が教えるキツネのせかい 書評

野生動物学者が教えるキツネのせかい 書評

著・塚田 英晴、緑書房、2024年1月、292頁、本体2,200円(税別)

キツネ(種名でいうところの“アカギツネ”)は全国的かつ全世界的に広く分布しており、文化的側面から見ても我々にとってとても馴染み深い野生動物といえる。しかしながら、灯台下暗しという諺のごとく、メディアやマスコットキャラクターなども含め、何かと目にする機会の多いキツネであるが、その野生下の実態を知っている人は決して多くはないだろう。著者の塚田英晴博士は、長年のキツネ研究で培った経験や知識をもとに、その生態をはじめ、文化的な関わり、現代においてキツネが引き起こす問題など、キツネに関するありとあらゆる情報をこの一冊にまとめている。そのシンプルなタイトルや柔らかいタッチの表紙絵からも分かるように、本書はキツネのことをあまり詳しく知らない層も含めた一般向けの解説本である。全編を通して専門用語が一般表現に置き換えられているため読みやすく、写真やイラストが多いので状況もイメージしやすい。生物に興味を持つ中高生にもお勧めである。一方で、大学院生や研究者にとっては物足りない内容か?否、決してそんなことはない。実際、私自身も同じくキツネを10年以上研究している身だが、本書から学ぶことは非常に多かった。特に、日常的なキツネの仕草や鳴き声、そしてそれらの行動の意味など、生体を直接観察・追跡していないと分からない行動生態などが事細かに説明されている点は大変興味深い。また、詳細な研究内容こそ省略されているものの、国内外の研究報告や資料など幅広く引用されており、キツネの総説論文のような側面も併せ持つ。他の種との関わりや比較なども紹介されているため、キツネ研究者はもちろん、他の哺乳類研究者にもお勧めできる。

本書は、全6章で構成されている。第1章では人々のもつキツネのイメージについて、昔の史料やアニメなどをヒントにその謎を紐解いている。第2章ではその分類からはじまり、分布、生息環境、生活環などの基本生態、つづく第3章では採餌、第4章では社会性、第5章ではエキノコックスの侵入・拡大経緯やその対策について紹介している。そして、最後の第6章では現代のキツネと人の間で起こる軋轢について紹介し、彼らとの適切な付き合い方についても提言している。その他、各章に付属するコラムの内容も興味深い。例えば、よくメディアで取り上げられる「黒いキツネは何者なのか」や「なぜキツネは靴を盗むのか」など、キツネに対する日頃抱えている疑問が本書を読むことで解決するかもしれない。

なお、本書とは別に、同著者は『もうひとつのキタキツネ物語 キツネとヒトの多様な関係』という本も出版しているが、こちらは北海道のキタキツネに焦点をあてており、かつより専門性の高い内容になっているので、本書を読んでキツネへのさらなる興味がわいたら読んでみるのも良いだろう。

天池 庸介(北海道大学大学院理学研究院)

野生動物学者が教えるキツネのせかい(PDFファイル)

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