哺乳類学の百科事典 Encyclopedia of Mammalogy 書評

哺乳類学の百科事典 Encyclopedia of Mammalogy 書評

著者:一般社団法人 日本哺乳類学会(編)、出版日:令和7年11月30日、出版社:丸善出版、価格:本体価格22,000円

『哺乳類学の百科事典』は、哺乳類学を広く知ってもらうことを目的に企画され、進化・系統、 多様性、分布、形態、遺伝、感覚・生理、生態、社会、保全管理、研究手法、そして「日本の哺乳類の現状と課題」までを射程に入れた、全11章・214項目という総覧である。哺乳類が陸・海・河川・空中と多様な生活空間に適応し、形態・遺伝・生理・生態・社会・生活史を進化させてきたこと、そして人間活動による生息地変化や軋轢に直面していることを踏まえ、基礎生物学と保全管理の双方を前線の知見で束ねようとする編集方針が読み取れる。

書き手である私は、アフリカツメガエル卵細胞を用いた受精研究に携わっており、哺乳類学の専門家ではない。だが受精研究は、マウスを筆頭とする哺乳類モデルが強く牽引してきた領域でもある。そうした隣接分野の研究者にとって、本書の価値は「必要な場所に、必要な入口がある」点にある。たとえば進化・系統分類の章では、哺乳類とは何か、爬虫類からの進化、種概念、種分化から隠蔽種までが見通しよく並び、遺伝の章ではゲノム解読、分子系統、集団遺伝、古代DNAなど、現代の研究基盤を支える語彙が一望できる。「モデル動物としての哺乳類」を点ではなく面として捉え直す足場が、ここにある。

同時に本書は、社会科学的関心にも応える。熊をめぐる人身被害・被害管理、野生動物と交通事故、人獣共通感染症、資源利用といった項目が「保全管理」の章に体系的に配置され、さらに「社会」の章では配偶システムや子育て、協力、コミュニケーション、文化、学習、そして「ヒトの社会」へと議論が接続される。近年のパンダ返還のように、哺乳類が外交・地域経済・メディア表象と絡む場面を思えば、哺乳類学は「生物学」だけでは完結しないことを、本書は目次構造そのもので示している。

また、本書が日本哺乳類学会を母体とし、100周年の節目に合わせて多数の研究者が関わった編纂であること、写真コラム等で多様性の実感へ導く工夫があることも、学会誌向け百科事典としての説得力を支える。分野外の私にとって本書は、哺乳類という対象を「研究モデル」と「社会の隣人」の二重焦点で捉え直し、次に読むべき論点を素早く立ち上げてくれる索引的装置である。哺乳類学の裾野を広げ、異分野研究者との共通言語を整える一冊として、研究室にも図書室にも置かれる価値が高い。

佐藤賢一(京都産業大学生命科学部)

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