平成27年度学会賞等選考報告
日本動物学会・学会賞等選考委員会
委員長 浅見崇比呂
平成27年度日本動物学会学会賞
本賞の全5名の応募者は、動物学の多様な領域を代表する優れた研究者であり、選考規程にある「学術上甚だ有益で動物学の進歩発展に重要かつ顕著な貢献をな す業績をあげた研究者」の条件を満たしていた。選考は困難をきわめたが、応募者の研究内容、研究業績、動物学の進歩発展への貢献度について詳細に審議した 結果、以下2名(五十音順)を理事会に推薦することとした。
西川輝昭(にしかわ てるあき)東邦大学元教授・名古屋大学名誉教授 研究テーマ「海産無脊椎動物の系統分類学」
推薦理由 西川輝昭会員は、ホヤ類、ナメクジウオ類、ギボシムシ類、フサカツギ類、ユムシ類、ホシムシ類の系統分類学を世界の第一人者として推進した。延べ600種 を超えるホヤ類に関する原著論文41報に設立した新種は23種に及ぶ。ホヤ類とは系統的に離れたユムシ・ホシムシ類に関しても多くの著作を刊行し、これら 動物群の系統分類に対する学術・社会的な理解の向上に随一の貢献を果たした。サナダユムシ及びユメユムシ属に関する研究では系統分類学の定説を覆し、世界 の注目を集めた。ナメクジウオ類では唯一200mを超える深度でかつクジラ死体近傍に生息するゲイコツナメクジウオをZoological Scienceに原記載し、ナメクジウオ類に80年ぶりの新種をもたらした。国際動物命名規約第4版の和訳を成し遂げ、その教育普及に貢献した。これら広 範にして奥の深い学術研究で世界の系統分類学をリードし、自然史研究の国際的振興に日本から寄与した功績の大きさは、日本動物学会学会賞にふさわしい。
山下正兼(やました まさかね)北海道大学教授 研究テーマ「卵成熟を最終的に誘起する仕組みの解明:卵成熟促進因子(MPF)の形成/活性化機構における普遍性と多様性」
推薦理由 卵母細胞は減数分裂第一前期で停止している間に胚発生に必要な物質を蓄積し、その後のホルモン刺激により減数分裂が再開し、第二分裂中期にて受精可能とな る。この過程を卵成熟とよび、特に卵成熟促進因子(MPF)はこの過程に重要な役割を果たす。MPFは1971年の発見以来、その実体が不明確であった が、山下氏は、MPFがCdc2とサイクリンBのみによって構成され、様々な動物でMPF本体の分子構造は同じだが活性型MPFの形成過程が動物種によっ て異なる事を示した。さらに、サイクリンB mRNAの時期特異的翻訳を制御するPumilioタンパク質を同定し、ホルモン刺激により卵が減数分裂を再開する機構を解明した。卵成熟研究において世 界をリードする研究を一貫して行い生殖生物学分野の発展に多大な貢献をした山下会員の功績は、日本動物学会学会賞にふさわしい。