進化生物学 ゲノミクスが解き明かす進化 書評

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進化生物学 ゲノミクスが解き明かす進化
赤坂 甲治 著,裳華房,2021年10月,304頁,本体3200円(税別)

本書は,主にゲノミクスや進化発生学に関する最新の知見に基づき,真核生物や多細胞生物,有性生殖,陸上動植物などの進化についてコンパクトかつ詳細に解説したものである。ゲノミクスや進化発生学を志す大学学部生や大学院生にとって,さらには両分野を専門としない生物学者がゲノミクスや進化発生学を学ぶ上で,本書は最適であろう。
第一章は重要な進化の概念を概観している。自然発生説やパスツールの実験,ラマルクやダーウィンの進化論,ダーウィンのジレンマ,さらにはパンゲネシスやヴァイスマンの生殖質説まで幅広く解説されている。第二章以降には,ミラーの実験やオパーリンの化学進化論から,RNAとDNAの化学進化,アーキアや高熱性細菌の進化,光合成生物と好気性生物の進化(特にエネルギー代謝),真核生物の進化,さらには多細胞化や有性生殖,陸上進出の進化が詳説されている。また,第七章や第十一章では,ゲノミクスにおいて必須概念である遺伝子重複,偽遺伝子,エキソンシャッフリング,シスエレメントやフィードバック調節などの用語が解説されている。そして,本書後半では,発生進化学の重要なトピックである,昆虫の翅の起源の解明,ショウジョウバエのHox遺伝子群の役割,ミツバチやシロアリのカースト分化における表現型可塑性,ダーウィンフィンチの嘴の進化,節足動物の付属肢の進化,頚椎の数が鳥類と哺乳類で異なるしくみ,脊索動物の背腹逆転のしくみ,ヘビの四肢喪失メカニズム,フグの特異形態のしくみなどが解説されている。著者の専門分野でもある棘皮動物の形態の進化にも触れられており,本書全体を通して,著者の主張がバランスよく織り交ぜられた内容となっている。
以上のように本書はコンパクトかつ詳細にゲノミクスや進化発生学を概説している。これだけの内容が日本語で体系的にまとめられている上,本書が低価格であることを踏まえると幅広い読者にとって非常に価値の高い本であるといえるだろう。しかし,いくつかの重要な進化の概念(中立説や遺伝的浮動など)が本書で触れられていないことから,「進化生物学」と題された専門書としては物足りなさも感じた。「DNAの塩基配列の突然変異はランダムに起こる。」という中立説に基づく解説や分子時計の解説は書かれているが(p. 14),中立説という用語自体は出てこない。さらに,瓶首効果の解説はなされているものの(p. 268),遺伝的浮動などの集団遺伝学に基づいた進化学における必須用語がほとんど出てこない点も,物足りなさを感じさせる要因の一つである。とはいえ,そもそも古典的な集団遺伝学の解説は本書がメインとするところではない。(特に動物を対象とした)進化発生学とゲノミクスを知りたいと思う読者に対して,本書は満足感を与えるものであろう。

左倉 和喜(基礎生物学研究所進化発生研究部門)

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